「スマホをやめたいからスマホアプリをダウンロードした」という文章を読んで、違和感を覚えない人はもう完全にスマホ脳になっている証拠だ。しかし2024年、これが現実となった。禁煙外来ならぬ「スマホ依存外来」で、医師が真面目な顔で「このアプリを使ってスマホ使用時間を減らしましょう」と処方箋を書く光景が、日本の病院でも珍しくなくなっている。
毒をもって毒を制する現代の治療法
国内で最も利用者数が多いスマホ依存治療アプリ「デジタルデトックス」の開発者に話を聞くと、興味深い事実が浮かび上がった。このアプリの平均利用時間は1日約20分。つまり、スマホ使用時間を減らすために、結果的にスマホを使っているという矛盾した状況が生まれている。
仕組みは意外にシンプルで、アプリがスマホの使用状況を監視し、設定した制限時間を超えると画面をロックする。ただし、緊急時用の「解除ボタン」も用意されており、これを押すと「本当にInstagramを見る必要がありますか?」という哲学的な問いかけが表示される。
より過激なのは「スマホ断食アプリ」だ。こちらは指定した時間帯に特定のアプリを完全に使用不可にする機能を持つ。夜10時から朝7時まで、SNSアプリが一切開けなくなる設定にしたユーザーからは「最初の1週間は禁断症状でイライラしたが、2週間目からは朝の目覚めが良くなった」という報告が寄せられている。
しかし皮肉なことに、このアプリ自体が「中毒性」を持っているという指摘もある。使用統計を確認するために頻繁にアプリを開く人、制限解除の理由を考えることに時間を費やす人など、本末転倒な使い方をするケースが後を絶たない。
スマホ依存治療の最前線で起きていること
治療アプローチとしては、従来の薬物療法やカウンセリングに加えて、デジタル治療という新しい選択肢が注目されている。日本の若年成人を対象とした研究では、モバイルヘルス(mHealth)の利用経験がある人は全体の32.19%に留まっており、デジタル治療の普及には時間がかかると予想される。
治療用アプリの開発においては、個人の使用パターンを分析し、個別化されたアプローチを提供する技術が進歩している。しかし、これらのアプリが新たな依存を生む可能性も指摘されており、治療効果と副作用のバランスを慎重に評価する必要がある。
研究者らは、日本版SAS-SVがスマートフォンの問題的使用の早期発見に役立つ可能性があると示唆している。早期発見により適切な介入が可能になれば、より深刻な依存症状の発現を予防できる可能性がある。
治療アプローチの現実と課題
研究データによると、スマートフォンの問題的使用の早期発見により早期介入が可能になり、子どもや青少年の問題のあるスマートフォン使用を予防できる可能性がある。しかし、この分野の研究はまだ発展途上にある。
アプリを使った治療法の矛盾は明らかだ。スマートフォン依存を治療するためにスマートフォンを使うという、一見すると本末転倒な状況が現実となっている。しかし、現代社会においてスマートフォンを完全に排除することは非現実的であり、「上手に付き合う方法」を学ぶことが重要だとする専門家の意見もある。
治療用アプリの効果については、まだ長期的なデータが不足している。短期的な使用時間の減少は報告されているものの、根本的な行動変容につながるかどうかは今後の研究課題だ。また、アプリ自体への依存や、治療行為そのものが新たな強迫的行動を引き起こす可能性も指摘されている。
重要なのは、スマートフォン依存が単なる「意思の弱さ」ではなく、医学的な関心事として扱われ始めていることだ。適切なインターネット使用に関する指導が保護因子となることも研究で示されており、教育的アプローチの重要性も浮き彫りになっている。
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