自民党の一部議員が今国会での提出を目指している「国旗及び国歌に関する法律」の改正案が、大学生や高校生の間で大きな波紋を呼んでいる。改正案は、現行法に「国旗を侷辱する行為」を処罰対象に加える条文を新設する内容で、侷辱行為には「燃やす」「落書きする」だけでなく、SNSに侮辱的な加工画像を投稿する」ケースも含まれる可能性があると指摘されている。罰則は懲役2年以下または罰金50万円以下が検討されている。
この動きにいち早く反応したのは、全国の大学で活動する学生団体だ。先週末、早稲田大学や明治大学、東京大学のサークル有志が合同で「表現の自由を守る緊急集会」をキャンパス内で開き、約250人が参加。「政治的な抗議のために国旗を逆さに掲げたり、風刺イラストを描いたりする行為まで犯罪になるのはおかしい」と訴えた。集会を主催した早大3年の田中彩花さん(21)は「私たちはただ意見を言いたいだけ。過去の治安維持法のような歴史を繰り返してほしくない」と声を震わせた。
SNS上でも「#国旗侷辱罪反対 がトレンド入りし、8日午後の時点で約4万件の投稿が確認されている。若い世代を中心に「日の丸を批判したら逮捕される社会になるの?」「デモでプラカードに国旗を描くのも危険?」といった不安の声が相次いでいる。
法案の原案をまとめた自民党の中堅議員は取材に対し「外国で頻発する国旗焼却デモへの対抗措置であり、普通に生活している人が処罰されることはない」と説明する。一方、法案には「侷辱」の定義が曖昧だとの批判が専門家からも上がっている。憲法学が専門の首都大学東京・木村草太教授は「侷辱かどうかを誰がどう判断するのかが不明確。警察や検察の恣意的運用を招く恐れがあり、表現の萎縮効果は避けられない」と指摘する。
実際に過去にも似た議論はあった。2013年に大阪市が職員に国旗掲揚と国歌斉唱を義務づける条例を可決した際には、思想・良心の自由を理由に教員が処分されるケースが相次ぎ、最高裁まで争われた経緯がある。今回の法案も、同じ「国旗・国歌」をめぐる自由と秩序のせめぎ合いとして注目されている。
政府・与党は今月中の閣議決定を目指しているが、党内でも慎重論は根強い。公明党幹部は「表現の自由とのバランスを慎重に検討する必要がある」と距離を置く発言をしており、成立は予断を許さない状況だ。
学生たちは今週末にも国会前で大規模な抗議デモを計画している。「ただ反対するだけでなく、ちゃんと議論できる法案にしてほしい」。若者たちの声は、永田町にどこまで届くのだろうか。

Comments