台湾野党、総統と行政院長の弾劾推進へ 歳入法をめぐり憲政危機

台湾野党、総統と行政院長の弾劾推進へ 歳入法をめぐり憲政危機 国際

台湾で、行政権と立法権の衝突が憲政危機に発展している。野党勢力は、政府が立法院で可決された「財政収支分配法」の公布を拒否したことを受け、頼清徳(ライ・チンテ)総統と卓榮泰(チョウ・ジョンタイ)行政院長の両者に対する弾劾手続きを開始した。

事の発端は、卓行政院長がこの法案への副署を拒否し、頼総統もこれを公布しなかったことだった。行政院が立法院で可決された法律に副署を拒否するのは、台湾の憲政史上初の出来事である。

18日、立法院の司法及び法制作業委員会は、監察院に対し卓行政院長の弾劾を求める決議を採択した。翌19日、国民党(KMT)と民衆党(TPP)の議員らは共同記者会見を開き、頼総統の弾劾推進を発表した。会見では、頼総統を初期の軍閥政治家・袁世凱を模した衣装で風刺するポスターが掲げられ、「議会を無視する暴挙だ」と批判した。

歳入法をめぐる憲法上の対立

政府側は、財政収支分配法が「三つの重大な違憲問題」を含んでいると主張している。すなわち、①行政権の侵害による三権分立の破壊、②審議を経ない「奇襲採決」、③国の債務上限を定めた公共債務法に違反する2,664億元(約8,460億円)の新規借入義務である。

一方、野党は「憲法第37条が定める『副署』は、総統権限をチェックするための仕組みであり、行政院長に拒否権を与えるものではない」と反論する。民衆党の黄国昌(ホアン・クオチャン)主席は「立法院が可決した法律を公布しない総統は前例がない」と語気を強めた。

限られた打開策

野党はオンライン署名を立ち上げ、わずか18時間で200万筆以上を集めた。しかし、現実的に弾劾を成立させる道は狭い。立法院において野党は過半数(113議席中62議席)を握るものの、総統弾劾には3分の2の賛成が必要であり、現状では到達が難しい。

さらに、憲法裁判所(司法院大法官会議)は、今年1月に野党主導で可決された「10名以上の大法官による審理義務」改正の影響で機能停止に陥っている。現在、在任中の大法官は8名しかおらず、弾劾審理を行うことができない状態だ。

野党のもう一つの手段は、行政院長に対する「不信任案」を提出することだ。この場合、頼総統は立法院を解散し、60日以内に総選挙を実施する権限を持つ。しかし野党側は「選挙で与党・民進党が議席を奪還する可能性がある」として、解散を伴う不信任決議には慎重だ。

その一方で、野党は立法院の会期延長を可決し、2026年1月31日まで審議を続ける構えを見せている。

Comments

タイトルとURLをコピーしました