米国在台協会(AIT)は、中国政府が繰り返し主張する「第二次世界大戦の関連文書に基づき台湾の主権は中国に帰属する」という論理について、「国際法上、台湾の主権が中国へ移譲されたことを示す決定的な証拠は存在しない」と改めて表明した。AITの発言は、中国が歴史解釈を通じて台湾統一の正当性を国際社会に訴えようとする試みに対する強い牽制とみられる。
中国の「歴史文書」論とその限界
中国は近年、カイロ宣言(1943年)やポツダム宣言(1945年)を根拠に「台湾は戦後、中国に返還された」と主張している。これらの文書は同盟諸国の戦争目的を示した外交的宣言ではあるが、法的拘束力のある領土変更を確定する条約ではない。
実際に戦後処理を規定した1951年のサンフランシスコ講和条約では、日本は台湾への主権を放棄したと明記された一方、その帰属先については言及されなかった。代わりに「未定」とされ、最終的な取り扱いは将来の国際的合意に委ねられたのである。
台湾に関わるもう一つの文書として1952年の中華民国(台湾政府)と日本との「日華平和条約」があるが、これも中国本土の中華人民共和国が参加しておらず、中国側が統一根拠として主張するには限界がある。
米国と国際社会の視点
米国政府は過去半世紀以上にわたり「台湾の地位は未定であり、平和的手段で将来的に解決されるべき」という政策を維持してきた。AITは今回の声明でもこの立場を繰り返し確認し、中国の歴史解釈を国際法的根拠として認めないことを強調した。
国際社会では、台湾を正式な国家として承認している国は依然として少数にとどまるが、半導体産業をはじめとする経済的存在感や安全保障上の重要性から、台湾を事実上「独立した政治主体」とみなす動きは強まりつつある。特に米国や日本、欧州各国は「台湾海峡の平和と安定」を国際的利益と位置づけ、中国の一方的な現状変更に反対する姿勢を鮮明にしている。
台湾は現在、民選による政府と独自の軍を保持し、事実上の自立した運営を続けている。しかし国際的には国連に加盟しておらず、主権国家として扱われる環境も限定的である。こうした「国家の機能を持ちながら国際法上は完全に承認されていない状態」が「未定」の根拠ともなっている。
AITの声明は単なる歴史論争にとどまらず、台湾をめぐる米中対立の根幹にかかわる問題を映し出している。中国は台湾統一を「歴史的必然」と位置づけ圧力を強める一方、米国は国際法と現実的なバランスを重視し、台湾の将来が武力によらず決定されるべきだと主張する。台湾問題は今後も東アジアの最大の緊張要素であり続けるとみられる。
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